
SNS動画の音源・BGMの選び方|著作権で迷わない企業の判断基準
編集は終わった。あとはBGMを付けるだけ。
——なのに、そこで10分止まる。
アプリの中に曲は並んでいるけれど、「この曲、会社のアカウントで使って本当に大丈夫なんだろうか」と思うと、指が止まる。かといって誰に聞けばいいのかもわからない。結局、無音のまま出すか、当たり障りのなさそうな曲を選んで、少しだけ不安を残したまま投稿ボタンを押す。
その気持ち、まったく普通のことです。音源まわりは、企業アカウントだけルールが違うという、少しややこしい構造になっているからです。知らないのではなく、そもそも分かりにくい。
今日は、覚えることをできるだけ減らして、迷う時間そのものを短くする形で整理していきます。
結論:企業アカウントの音源は、この3つから選べば大丈夫です。
① アプリ内の「ビジネス向け」音源ライブラリ(各SNSがビジネス利用向けに用意しているもの)
② 商用利用可の音楽素材サービス(ライセンスを買って使うもの)
③ 自社で用意した音(現場の作業音・環境音、自社で制作した曲)
逆に、市販のCD・配信の音源をそのまま付けるのは避ける。これだけ守れば、大きな事故はほぼ防げます。
何が起きているか:音楽には「2つの権利」が重なっている
「アプリの中に入っている曲なのに、なぜ企業だと使えないことがあるの?」
ここが、いちばん引っかかるところだと思います。理由はシンプルで、1曲の音楽には、性質の違う権利が重なっているからです。
- 曲そのものの権利(作詞・作曲した人の権利)
- 録音された音源の権利(その演奏を録音・制作した人や会社の権利。「原盤権」と呼ばれます)
日本では、前者の管理をJASRACやNexToneといった団体が担っていて、主要なSNSはこれらの団体と包括的な契約を結んでいることが公表されています。つまり「曲そのもの」の部分は、プラットフォーム側である程度カバーされている場面がある、ということです。
一方で、後者の「録音された音源」は、この包括契約の対象外です。ここはレコード会社などが個別に持っています。
だから、こういう差が生まれます。
- 市販のCDや配信で売られている音源を、そのまま動画に付ける → 原盤の権利が別途必要になるので、避けたい
- SNSが自前で用意した音源ライブラリの曲 → そのSNSが権利処理をしたうえで置いているので、利用条件の範囲内なら使える
そして、もうひとつ大事な前提があります。包括契約が想定しているのは、多くの場合「一般の利用者による投稿」です。企業が販促・広報の目的で使う場合は、扱いが変わることがあります。だからこそ、多くのSNSでビジネスアカウント向けには別の音源ライブラリが用意されているのです。
意地悪をされているわけではなく、企業向けにきちんと処理された棚が、別に用意されている——そう捉えると、少し気が楽になります。
選択肢は3つだけ

1. アプリ内の「ビジネス向け」音源ライブラリ
各SNSは、自分のアプリの中に音源のライブラリを持っています。ここで気をつけたいのが、アカウントの種類によって、見える曲・使える曲が変わるという点です。
ざっくり言うと、個人・クリエイター向けの棚と、ビジネス向けの棚が分かれている。ビジネス向けの棚は曲数が少なめですが、その代わり、企業が使う前提で用意されています。
つまり、あなたのアカウントがビジネス設定になっていて、そこで表示される音源を使うのであれば、それは「企業向けに用意された棚から選んでいる」ということになります。曲数が少ないのは、制限というより安全側の設計です。
ただし、ここには落とし穴もあります。
- アカウントの種類を切り替えると、使える曲が変わることがあります。個人設定のときに付けた曲が、ビジネスに切り替えた後の投稿では選べない、という場面が起こります。
- 後からライブラリの提供が終わり、過去の投稿の音が消える(ミュートされる)ことがあります。契約の期間が終わった曲は、棚から下げられるためです。
- 仕様は頻繁に変わります。半年前に見た説明が、もう古いこともあります。
各SNSの音源ライブラリの名称・対象範囲・利用条件は更新が多いところなので、実際に使う前に、そのSNSの公式ヘルプで「ビジネスアカウントでの音源利用」を一度確認しておくのが確実です。これは調べ物というより、年に1〜2回の点検くらいの感覚で大丈夫です。
2. 商用利用可の音楽素材サービス
外部の音楽素材サービスから、ライセンスを取得して使う方法です。月額制のものも、1曲ずつ購入するものも、無料で公開されているものもあります。
いちばんの利点は、どのSNSに出しても同じ音源を使えること。アプリ内の音源は、そのアプリの中で完結する前提のものが多いので、同じ動画をInstagramにもTikTokにもXにも出したい場合、外部の素材を持っておくほうが結果的に楽です。使い回しの考え方は複数SNSの「使い回し」と「作り分け」にもまとめています。
選ぶときに確認したいのは、次の4点です。
- どこで使えるか:「SNS投稿はOK、広告はNG」といった区分があるサービスが多くあります。
- クレジット表記が必要か:曲名や作者名を概要欄などに書く条件が付いていることがあります。
- 契約が終わったあと、過去の投稿はどうなるか:月額制の場合、解約後に既存の動画をそのまま残せるかどうかは、サービスによって扱いが違います。ここは意外と見落とされます。
- 同じ曲を何本の動画に使えるか:本数や期間の制限が付く場合があります。
3. 自社で用意した音
見落とされがちですが、いちばん確実で、いちばん自社らしいのがこれです。
- 現場の作業音(機械の音、包装の音、キーボードの音、コーヒーを注ぐ音)
- 店舗の環境音
- 社内で演奏・制作した音楽
権利のことを一切気にしなくていいうえに、現場の音は、それだけで「本物らしさ」が出ます。きれいに作り込んだBGMより、実際の作業音のほうが最後まで見てもらえた——という声は、現場ではよく聞きます。
「音楽を付けなければいけない」という決まりはありません。無音や、現場の音だけ、という選択も立派な答えです。
SNSごとに気をつけたいところ
細かい仕様は変わるので、押さえておきたい「考え方」だけまとめます。
| SNS | 音源まわりで気をつけたいこと |
|---|---|
| Instagram(リール・ストーリーズ) | ビジネス設定のアカウントでは、表示・利用できる音源の範囲が変わることがある。アプリ内の音源は基本的にアプリ内で使う前提 |
| TikTok | ビジネス向けの音源ライブラリが別に用意されている。一般向けの流行曲がそのまま使えるとは限らない |
| YouTube(ショート含む) | 無料で使えるライブラリがある一方、権利の自動照合の仕組みがあり、外部音源を使うと申し立てが入ることがある |
| X(旧Twitter) | 音源ライブラリを前提にしにくいので、動画に音を入れるなら自前で用意するのが基本 |
| Instagramと同じ考え方。ビジネス利用で使える範囲を確認しておく | |
| LINE公式アカウント | 配信する動画の音源も、商用利用の可否を確認したうえで使う |
各プラットフォームごとの運用の全体像は、TikTok企業アカウントの始め方、Instagramリールの構成、YouTubeを続ける運用もあわせてどうぞ。
つまずきやすい3つの場面
実務で「うっかり」が起きやすいのは、だいたいこの3つです。
1. アプリ内の音源を付けた動画を、他のSNSに転載する
これがいちばん多い場面です。Instagramのリールに音源を付けて、その動画をダウンロードして、TikTokやXにも上げる——。
アプリ内の音源は、そのプラットフォームの中で使う前提で提供されているものです。動画ファイルとして持ち出して他所に上げると、想定された使い方から外れます。
対処はシンプルで、他のSNSにも出すつもりの動画は、最初から外部の商用音源か自社の音で作る。あとで悩まずに済みます。
2. オーガニック投稿でOKだった曲を、そのまま広告に使う
通常の投稿で使えた音源が、広告として配信するときには使えない、というのはよくあることです。広告は「販促の目的で費用をかけて配信するもの」なので、必要な権利の範囲が変わります。
投稿が伸びたので広告に回したい、という流れはとても自然なのですが、広告に回すときは音源をもう一度確認するという一手間を、手順の中に入れておくと安心です。広告の始め方はSNS広告を少額から始めるで整理しています。
3. 「フリー素材」「著作権フリー」を、自由に使えるという意味だと受け取る
ここは言葉の問題です。
- 「フリー素材」=無料とは限りません。有料の素材サービスでも「フリー素材」と表記されることがあります。
- 「著作権フリー」=権利がない、ではありません。多くの場合、「ロイヤリティフリー=使うたびに使用料が発生しない」という意味で使われています。権利そのものは制作者にあり、利用条件は必ず存在します。
- 「商用利用可」でも、条件が付いていることがあります。クレジット表記が必要、加工不可、再配布不可など。
面倒に感じるかもしれませんが、確認するのはその素材の利用規約1ページだけです。ダウンロードする前に一度読んで、スクリーンショットを保存しておけば、その曲についてはもう二度と調べなくて済みます。
一度だけ作っておくと、あとが楽になるもの
音源の判断を毎回ゼロからやると、そのたびに10分溶けます。一度だけ作っておけば、以後は選ぶだけになります。
「使ってよい音源リスト」を1枚作る
表計算ソフトでもメモアプリでもかまいません。列はこれだけで足ります。
| 音源名 | 入手元 | 使える範囲 | クレジット表記 | 保存場所 |
|---|---|---|---|---|
| (曲名) | (サービス名) | SNS投稿のみ/広告も可 | 要/不要 | (フォルダのパス) |
新しい曲を使うときだけ、行を1つ足す。次に動画を作るときは、この表から選ぶだけです。判断を毎回するのではなく、判断を一度して、それを残しておく。この形にするだけで、ずいぶん軽くなります。
素材の保管とファイル名の付け方は、SNS運用の素材管理の考え方をそのまま音源にも使えます。
利用規約のスクリーンショットを、音源と同じフォルダに置いておく
「この曲、どういう条件だったっけ」が半年後に必ず来ます。そのときのために、ダウンロードした日の規約の画面を1枚、音源ファイルの隣に保存しておきます。社内で聞かれたときにも、そのまま出せます。
あなたへの影響
- 編集の最後で止まる時間がなくなります。選択肢が3つに絞れていれば、迷いは「どの曲にするか」だけになります。
- 後から音が消える事故を減らせます。外部の商用音源や自社の音を使っておけば、ライブラリの入れ替えに影響されません。
- 投稿を広告に回すときにつまずかなくなります。最初から「広告も可」の音源を選んでおけば、伸びた投稿をそのまま活かせます。
- 社内から聞かれたときに答えられます。「これ権利大丈夫?」に、リストと規約のスクリーンショットで答えられる状態は、担当者としてかなり強い足場になります。
明日やること
- 自分のアカウントが、ビジネス設定になっているか確認する。ここが基準になります。
- 直近に出した動画を1本だけ開いて、使った音源の入手元を思い出してみる。全部さかのぼらなくて大丈夫です。1本だけで十分です。
- その音源が「アプリ内のもの」だったら、他のSNSに転載していないかだけ確認する。していなければ、そのままで問題ありません。
- 「使ってよい音源リスト」を、まず1行だけ作る。いま使っている曲を1つ書くだけで、リストは始まります。
- 今後よく使いそうな音源を、1〜2曲だけ決めておく。毎回選ばなくて済むようになります。
- 無音や現場の音でいける動画がないか、ひとつ考えてみる。案外、そのほうが伝わることがあります。
全部を明日やらなくて大丈夫です。1番と4番だけでも、次の動画で止まる時間はひとつ減ります。

権利の話は、読んでいて楽しいものではありません。守っても誰も褒めてくれないし、うまくいっても「何も起きなかった」だけです。
でも、「これ使って大丈夫かな」と一度立ち止まったあなたは、もうきちんと守れています。危ないのは、迷わずに使ってしまうときのほうです。止まれたこと自体が、この仕事で一番大事な感覚だと思います。
覚えるのは、選択肢が3つあること。それだけです。あとはリストに書き足していけば、来月のあなたはもう迷いません。
チェックリスト(保存用・動画に音を付けるとき)
- アカウントがビジネス設定になっているか確認した
- 使う音源が、次の3つのどれかに当てはまる(アプリ内のビジネス向け/商用利用可の素材/自社の音)
- 市販のCD・配信の音源をそのまま使っていない
- アプリ内の音源を使った動画を、他のSNSに転載していない
- 他のSNSにも出す予定があるなら、外部の商用音源か自社の音で作った
- その音源の利用規約を読み、使える範囲を確認した
- クレジット表記が必要かどうかを確認し、必要なら記載した
- 広告に使う予定があるなら、広告利用が可能な音源か確認した
- 月額制サービスなら、解約後に既存の投稿をどう扱うかを確認した
- 利用規約のスクリーンショットを、音源と同じ場所に保存した
- 「使ってよい音源リスト」に1行追加した
- 音を出さずに見る人のために、字幕(テロップ)を入れた
- 無音や現場の音という選択肢も一度検討した
各SNSの音源ライブラリの範囲・名称・利用条件は、仕様変更で変わります。本記事は一般的な考え方の整理です。実際の可否は、各プラットフォームの最新の公式ヘルプと、使う音源の利用規約、および自社の広報・法務方針でご確認ください。
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