
社員が写る投稿の同意の取り方|退職後の扱いまで決めておく
去年の投稿をさかのぼっていて、ふと手が止まる。
写っているのは、もう会社にいない人。
「これ、消したほうがいいのかな」。そう思いながら、判断できる根拠が手元にない。撮ったときは「写真、載せていいですか」「いいですよ」で終わっていて、それ以上の話をした記憶もない。かといって本人に今さら連絡するのも気が引ける——そのまま、そっと画面を閉じた日はありませんか。
これは、あなたが手を抜いたから起きたことではありません。同意を「その場の一言」で交わす習慣は、どの会社でもごく普通にあるからです。むしろ、社員に協力してもらって投稿を作ってきた人ほど、この場面に出会います。
必要なのは、重たい同意書でも、法務への長い相談でもありません。撮る前に3つだけ言葉にしておくこと。今日は、その3つと、そのまま送れる頼み方を一緒に決めていきましょう。
結論:同意は「撮っていい?」ではなく、次の3つをセットで伝えると迷いが消えます。
① どこに:どのアカウント・どの媒体に出すか
② いつまで:いつまで残るか(基本は「消すまで残る」と正直に伝える)
③ やめたあと:退職・異動したあと、その投稿をどう扱うか
そして、やりとりはチャットやメールなど、記録に残る形で。口頭だけにしないだけで、あとから困る場面はぐっと減ります。
全部をいきなり整えなくて大丈夫です。まずは③を1行決めるところからで十分です。
何が起きているか:「いいですよ」の中身が、決まっていない
社員が写る投稿でつまずくのは、たいてい撮影のときではなく、半年後・一年後です。理由はシンプルで、同意した内容の中身が空欄のまま進んでいるからです。
- どこに出すかが決まっていない:社内報のつもりだった人と、公式アカウントに出す担当のあいだで、前提がずれる
- いつまで残るかを話していない:本人は「そのときの投稿」と思い、実際は数年残る
- 辞めたあとの扱いを決めていない:判断する人がいないまま、投稿だけが残る
- 記録が残っていない:口頭でOKをもらったが、担当が代わると誰も確認できない
そしてもうひとつ、見落としやすいことがあります。頼まれた側は、断りにくいということです。広報や上司から「写真いいですか」と言われて、その場で「いやです」と言える人は多くありません。だからこそ、あとから「実は気が進まなかった」が出てくる余地が残ります。
これは相手を疑う話ではなく、その場で断らなくてもいい逃げ道を、こちらから用意しておくという話です。3つを先に伝えるのは、そのためのものでもあります。
具体例:同じ「いいですよ」でも、思っていることは違う
同じ返事でも、頼んだ側と本人で、想像している範囲がずれていることがあります。
| 場面 | 頼んだ側の想定 | 本人が思っていたこと |
|---|---|---|
| 現場作業の写真を撮る | 公式アカウントで、作業風景として長く使う | 社内のチャットで共有されるくらいだと思っていた |
| 社員紹介で顔写真を出す | プロフィール的にずっと残す | 今年の紹介企画のあいだだけだと思っていた |
| 退職が決まった | 過去の投稿はそのまま残す | 辞めたら消してもらえると思っていた |
どれも、悪意のあるすれ違いではありません。言葉にしなかったところが、それぞれの想像で埋まっただけです。埋める前に3つを渡しておけば、このずれはほとんど起きません。
同意で決めておく3つ

① どこに:出す場所を、具体名で伝える
「SNSに」ではなく、アカウント名まで言うと伝わり方が変わります。「公式X(旧Twitter)と、Instagramの2つに出します」まで言えば、本人も想像がつきます。社内報だけのつもりの写真と、公式アカウントに出す写真は、分けて考えたほうが安全です。
② いつまで:正直に「消すまで残ります」と伝える
期間を区切れるなら区切る。区切れないなら、「基本的には消すまで残ります」と正直に言うほうが、後々の信頼を損ないません。そのうえで「気が変わったら、いつでも言ってください」と添えておく。この一言があるだけで、本人の心理的な負担は大きく変わります。
③ やめたあと:退職・異動したときの扱いを、先に決める
ここが今日いちばん伝えたいところです。よくあるのは次の3つの型です。
| 型 | 内容 | 向いている会社 |
|---|---|---|
| A:原則そのまま残す+申し出があれば消す | 退職しても投稿は残すが、本人から連絡があれば速やかに非公開・削除 | 多くの会社。運用が現実的に回る |
| B:退職時に一律で非公開にする | 退職を確認したら、写っている投稿をまとめて下げる | 人の入れ替わりが少ない・投稿数が少ない会社 |
| C:退職時に本人へ都度確認する | 一件ずつ本人の意向を聞いて判断 | 顔出しの投稿が特に多い・慎重に扱いたい会社 |
ひとりで運用しているなら、まずはAをおすすめします。 Bは過去の投稿が虫食いになって一覧が不自然になりやすく、Cは退職のたびに連絡と確認の手間がかかって、忙しい時期には現実的に回りません。Aなら、決めるのは「申し出があったら何営業日以内に対応するか」の一点で済みます。
「消してほしい」と言われたときは、応じる前提で
法的な線引きだけ、誠実にお伝えしておきます。
顔が識別できる形で人を撮影・公開することについては、肖像権(憲法や判例で人格権の一部として認められてきた権利で、「肖像権法」という単独の法律があるわけではありません)が関わります。本人の同意を得ていれば公開できるのが基本ですが、同意の範囲を超えた使い方をした場合や、本人が強く削除を求めている場合は、争いになりやすい領域です。
つまり、「退職者の写真を消す法的な義務が必ずある」わけでも、「同意をもらったから永久に使い続けられる」わけでもありません。個別の事情で判断が分かれます。だからこそ実務としては、言われたら応じる前提で運用しておくのがいちばん軽い、というのが結論になります。判断に迷うケースや、トラブルの気配があるときは、自社の法務・顧問弁護士に確認してください。
そのまま送れる、頼み方の文面
チャットにコピーして使えるよう、短くまとめました。長い同意書より、この4行のほうが実際に運用が続きます。
○○さん、先日の作業の写真、投稿に使わせてもらえないでしょうか。
・出す場所:公式X/公式Instagram(社外に公開されます)
・残る期間:基本的に、こちらで削除するまで残ります
・退職・異動されたあと:投稿はそのまま残りますが、
「消してほしい」とご連絡いただければ、すぐに非公開にします
無理なときは遠慮なく「今回はやめておきます」で大丈夫です。
気が変わったときも、いつでも言ってください。
ポイントは最後の2行です。断ってもいい・あとから変えてもいいと最初に伝えておくと、その場の空気で「いいですよ」と言わせてしまうことを防げます。返ってきた「大丈夫です」の一言が、そのまま記録になります。
もらった返事は、素材フォルダにメモを1行残しておくと、引き継ぎのときに助かります。
2026-07-27 撮影/○○さん/公式X・Instagram/同意:社内チャットで取得
あなたへの影響
3つを決めておくと、次の3つが変わります。どれも、ゆっくり効いてくるものです。
- 本人との関係が軽くなる:協力をお願いしやすくなり、「次も撮っていいですか」が言いやすくなる
- 過去の投稿に迷わなくなる:退職者の写真が出てきても、決めたルールに沿って処理するだけで済む
- 引き継ぎで止まらない:担当が代わっても、次の人が同じ判断をできる(判断の理由が残る)
逆に、決めないまま運用を続けると、迷いが一件ずつ増えていきます。判断そのものより、「どうしよう」と何度も考え直す時間のほうが、実は重い負担になります。
明日やること:4ステップ
- 退職後の扱いを1行だけ決める(迷ったら「原則そのまま残す。本人から申し出があれば3営業日以内に非公開にする」)
- 上の頼み方の文面を、チャットの定型文やメモに保存する(次に頼むときコピーするだけにする)
- 素材フォルダに「同意メモ」の1行を残す運用を始める(撮影日/相手/出す場所/同意をどこで取ったか)
- すでに退職した人が写っている投稿を、思い出せる範囲でリストにする(全件でなくていい。顔が大きく写っているものだけで十分)
4は、今日やらなくても大丈夫です。1と2だけ済ませておけば、これから撮る写真については同じ悩みが起きません。過去の分は、時間ができたときにゆっくりで構いません。
社員が写る投稿 チェックリスト
- 撮る前に
- 出す場所を、アカウント名まで具体的に伝えたか
- どのくらい残るかを、正直に伝えたか
- 退職・異動したあとの扱いを伝えたか
- 「断ってもいい」「あとから変えてもいい」と添えたか
- やりとりを、チャットやメールなど記録に残る形で行ったか
- 出す前に
- 顔が大きく写る人全員から、同意を得ているか(背景に小さく写る人も含めて確認したか)
- 制服・名札・社員証など、意図せず読める情報が入っていないか
- 本人のプライベート(家族・自宅・私物)に踏み込んでいないか
- 決めておくこと
- 退職後の扱い(A/B/Cのどれか)を決めて、書き残したか
- 「消してほしい」と言われたときの窓口と対応期限を決めたか
- 同意メモを、素材と同じ場所に保管しているか
- 続けるために
- 頼み方の文面を、コピーできる場所に置いたか
- 引き継ぎ資料に、このルールを1行入れたか
全部そろわなくても大丈夫です。上の3つ(出す場所・残る期間・辞めたあと)を伝えられたら、その日はもう十分です。
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写真をお願いするとき、少しだけ気を使いますよね。それは、あなたが相手のことを考えている証拠です。
その気づかいを、毎回ゼロから絞り出さなくていいように、3つの言葉に変えておく。それだけで、頼むほうも頼まれるほうも、ずいぶん楽になります。
過去の投稿に迷った日があったなら、それはルールが必要になるくらい、あなたが社員の顔をきちんと出してきたということです。次に「写真いいですか」と声をかけるときは、あと3行だけ添えてみてください。きっと、前より軽く言えるはずです。